美山の風景 2014秋



文、写真:青田真樹

減少しつつある天然の舞茸

黄金色に輝く田園風景が広がる頃、美山の秋が始まります。森では、9月中旬から栃や栗、ブナなどの木の実が実り、下旬から舞茸、10月に入ると松茸が登場し、11月になめこの最盛期を迎えます。そして11月15日から猟期が始まり鹿・猪へと秋の主役が移っていきます。

里では、9月中旬に稲刈りがはじまり、茄子やししとうなどの夏野菜は終盤を迎え、ぶどうや柿、いちじくなどの果物、さつまいも、里芋などが収穫されます。同時に冬野菜の準備に追われながらも、週末ごとに運動会や秋祭りなどの地域のイベントが行われます。猟師たちは、猟期に向けた道具の整備や各種更新手続きを、山師たちは間伐に枝打ちなど冬に向けた準備をします。そして11月中旬から初雪までに雪囲いの準備をし、12月初旬の「山の口」で山仕事を納めると、芦生のわさび祭りが行われる4月10日の山開きまで、長い冬のシーズンを迎えます。

この時期、美山に住む人達が一番楽しみにしているのはきのこ狩りです。普段は山に入らない人も自分しか知らない秘密の場所へ通う姿が見られるようになります。野人たちももちろんきのこ狩りが大好きです。特にミズナラの樹の根元にびっしりと生える舞茸を狙っています。大きな株の舞茸を見つけた時の手応えは得難いもので、一攫千金ならぬ一攫千茸を目指して山へと入っていきます。

ただ近年「きのこが出なくなってきた」と野人たちは嘆いています。食用だけではなく毒きのこも含めてすべてのきのこが減っているそうです。これまでなら、場所と時期に狙い定めて舞茸を採ろうと山に入ると、一回では運びきれないほど狙い通りに採れたそうですが、今では狙い通りにいかないようです。場所に狙いを定めてもすでにミズナラが倒れていたり、時期に狙いを定めても天候不順できのこが出ていなかったり出たあとだったりします。そして場所と時期が合ったとしてもこれまでより収量が少ないことが多々あるようです。また、野人の「きのこが出なくなってきた」にはもう一つ、きのこの生える環境の変化が含まれています。きのこは日陰で湿気が多い地面や倒木に生えるものが多く、松茸ならマツ、舞茸ならミズナラ、なめこならブナというように特定の樹種の周辺かその木自体に生えます。そして気温や湿度、土や木々の栄養状況など一定の条件が整った時に生えてきます。この環境や生育条件を野人たちは知っていて、それらを手がかりにしながら山に入り、きのこ狩りにいくわけです。自分の猟場(誰も知らない自分だけのきのこの在処)が荒れていき、労をかけてもきのこがこれまでのように採れなくなっていく。

「以前は山に行くときのこが採れ、他の植物と出会えることも楽しみだったが、段々と出会えなくなって悲しい。採れないことは悲しいけれどそれ以上に山が荒れてしまったことがもっと悲しい。」

と、野人井栗が嘆いています。


成り年

今年は栗・栃などの木の実の成り年です。木の実をつける木々は、動物たちに全て食いつくされてしまわないように、成り年とそうでない年を周期的に作っているそうです。これは、命を守りつなぐ木々の工夫です。その木々の恵みを預かっている私たちですが、木の実の中で「よく食べる気になったなぁ」と思うのが栃の実です。生の栃の実は渋くて苦くて、100人が100人とも「まずい!」と言うと代物です。そんな栃の実を先人たちは様々な工夫をし、保存食に変え、美味しい木の実の代表選手に育て上げました。

この「まずい」栃の実が美味しくなるまでには、膨大な手間と時間がかかっています。まず採った栃を水にさらしてざっとアクを抜き、虫を取り除き、完全に乾燥させます。栃餅を作る時には、緩やかな流れのある川に数日浸けてふやかしてから皮を剥きます。そして再び川に浸け、大量の灰と合わせて二晩おきます。最後に川で灰をきれいに洗い流します。これでやっと美味しい栃の実になるわけです。採ってから食べられるようになるまでに約1ヶ月。あとはもち米と一緒に蒸して、餅をつくと栃餅の完成です。この知恵を先人たちが試行錯誤して見つけ出してくれました。

経済的な価値基準から見ると先人たちの知恵は、「非効率」で「換金する価値がない」ものかもしれませんが、この知恵こそが里山的な暮らしの豊かさの根源となっていることを、栃餅を頬張りながら実感させられます。

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